個人事業主から合同会社に法人化するには?必要な手順を詳しく紹介
個人事業主として始めた事業が軌道に乗れば、次は法人化を目指す方もいることでしょう。しかし、個人事業主から法人化するには、どのような手続きが必要なのでしょうか。今回は、個人事業主が合同会社に法人化(法人成り)するための手順と、法人化した後に必要な手続きなどについて、詳しくご紹介します。
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個人事業主から合同会社に法人化するための手順
個人事業主として事業をしていた方が合同会社に法人化するためには、法人登記を行わなければなりません。ここで、合同会社として法人登記するための手順について、詳しく見ていきましょう。
合同会社の基本事項等を決定
まずは、設立する合同会社の基本事項を決定しましょう。法人登記するためには、「商号(会社名)」「事業目的」「本店の所在地」「役員の構成」「資本金」の各項目について定めておかなければなりません。合同会社として世間に認識してもらうためには、ここでしっかりと決めておく必要があります。
商号(会社名)
合同会社の商号については、個人事業主で使用していた「屋号」をそのまま利用してもいいですし、会社設立にあたって新たな名称を付けても問題ありません。
事業目的
今後、法人として行いたい事業の内容や、新たにビジネス展開したい事業についても記載しておくようにしましょう。
本店の所在地
居住用に借りている部屋や分譲マンションを本店の所在地としたいと考えている場合は、契約条件や管理規約において法人登記不可としているところがあるため、注意が必要です。トラブルを避けるためにも、事前に賃貸借契約書やマンションの管理規約などをしっかりと確認しておきましょう。
役員の構成
個人事業主から合同会社に法人化する場合、事業主一人もしくはその家族だけで登記するケースが多いため、役員構成についてほとんど検討する必要はありません。複数人で合同会社を設立する予定であれば、役員構成も考えておいてください。
資本金
資本金の金額も決めておく必要があります。現状、資本金1円からでも合同会社を設立することは可能です。しかし、資本金は金融機関など対外的な信用に関わる重要な項目であり、今後の事業展開に大きく影響します。直前の確定申告書をもとに決めておけば、問題ないでしょう。
会社登記に必要な書類作成
合同会社の基本事項を決定したら、その項目をもとに定款を作成しなければなりません。定款には、「絶対的記載事項」と「任意的記載事項」があり、この2つをまとめて作成する必要があります。
絶対的記載事項
定款に必ず記載しなければならない項目が「絶対的記載事項」です。
・商号(会社名)
・事業目的
・本店の所在地
・設立に際して出資される財産の価額又はその最低額(資本金)
・発起人の氏名又は名称及び住所
・発行可能株式総数
相対的記載事項
定款には記載してもしなくても、どちらでもよいのが「任意的記載事項」です。
・株式の譲渡制限に関する定め
・取締役会、会計参与、監査役、監査役会、会計監査人、委員会、代表取締役の設置
・取締役等の任期の短縮、伸長
・監査役の任期の伸長
・公告の方法
など
公証人の定款認証
株式会社を設立する場合は、公証人による定款認証の手続きを行わなければなりません。文書作成した定款を認証してもらうか、データ作成した電子定款をオンライン送信して認証してもらうか、いずれかの方法をとる必要があります。ただし、合同会社の場合は、その必要はありませんが、登記申請には定款が必要です。
資本金の払込み
定款認証が完了した後、代表者の口座に資本金を振り込みます。その際、資本金の振込があったという取引履歴がある通帳のコピーをとっておきましょう。ネットバンクなど通帳がない銀行の場合は、該当する取引履歴をパソコン等に表示させ、画面をスクリーンショットしてPDFや画像データとして印刷しておくとよいでしょう。この文書が、払込証明書として使用されます。
法務局での登記申請
資本金の払込みが終われば、法務局で登記申請を行います。直接法務局に出向いて登記申請する場合に必要な書類は、次のとおりです。
・登記申請書
・登録免許税納付用台紙
・OCR用申請用紙又は磁気ディスク
・定款
・払込証明書
・印鑑届出書
・(必要があれば)発起人の決定書
他にも書類が必要なケースもあるため、詳細は法務局のHPを確認してください。
【参考】法務局・法人登記申請手続:https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/touki2.html
法人化した後に必要な手続き
法人登記が完了して法人化した後にも、さまざまな手続きが必要となります。ここで、主な手続きについてご紹介します。
法人名義の銀行口座開設
まずは、設立した合同会社名義の銀行口座の開設が必要です。理由としては、個人事業主の時の口座で管理していた事業に関する金融資産や、売上や支払いなどの入出金は、すべて合同会社の名義で管理する必要があるためです。
法人化後は、会社名義の口座にあるお金は個人で使用することができません。会社のお金と個人のお金とは、しっかりと分けて管理するようにしましょう。
必要機関への届出
法人化することで、事業に関係する機関に届出が必要となります。主な届出については、次のとおりです。
税務署への届出
合同会社の本店の所在地を管轄する税務署に、以下の届出をしなければなりません。その際に、法人の登記事項証明書や定款のコピーが必要となります。
・法人設立届出書
・青色申告の承認申請書
・給与支払事務所等の開設届出書
・源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書
都道府県税事務所・市町村への届出
都道府県税事務所や市町村には、以下の届出が必要です。
・法人設立届出書
年金事務所への届出
法人化すると、社会保険の加入手続きが必要になります。「厚生年金保険」「健康保険」「介護保険」の3つの社会保険に加入しなければならず、年金事務所に届出をしなければなりません。従業員が自分ひとりの合同会社でも、役員報酬として給与支払を受けるのであれば、社会保険への加入が必要です。
必要な届出は、以下のとおりです。
・健康保険・厚生年金保険新規適用届
・健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届
・健康保険被扶養者(異動)届
労働基準監督署への届出
合同会社を設立して、従業員一人でも雇用するのであれば、労働保険の加入手続きをしなければなりません。必要な届出や書類は、以下のとおりです。
・労働保険保険関係成立届
・労働保険概算保険料申告書
ハローワークへの届出
従業員を雇用するなら、ハローワークにも以下の届出が必要です。
・雇用保険適用事業所設置届
・雇用保険被保険者資格取得届
合同会社へ資産を移行
個人事業主から法人化することによって、個人事業に関連する資産や債務はすべて合同会社に移行させなければなりません。移行させるための手続きは、次の3つになります。
売買契約
契約者を個人事業主と合同会社とし、移行させる資産を特定して売買契約を締結する方法です。手続きは分かりやすいのですが、資金移動が発生するため注意する必要があります。
現物出資
現物出資とは、個人事業主が所有する金銭以外の資産について、現物を合同会社に出資させて資本金を増加させる方法のことです。現物出資額が500万円以上の場合は、検査役として弁護士や公認会計士による調査が必要になります。移行資産が500万円を超える場合は、他の方法を選ぶとよいでしょう。
賃貸契約
個人事業主の資産をそのまま合同会社に貸すことにして、両者の間で賃貸借契約を結ぶ方法もあります。賃貸借による料金が発生する場合は、毎年確定申告をする必要があります。
債務の移行
個人事業に関する債務移行の方法は、合同会社が個人事業主とともに債務引受する「重畳的債務引受」と、合同会社単独で債務引受する「免責的債務引受」の2つです。
「重畳的債務引受」では、根抵当権が設定されている場合、合同会社が債務者に加わる形になります。「免責的債務引受」では、一般的に個人事業主が連帯保証人となり、根抵当権は個人から法人に債務者を切り替えることとなります。
個人事業に関する廃業届の提出
資産や債務の移行手続きが完了したら、個人事業に関する廃業届の提出を行ってください。税務署へは、廃業日から1ヵ月以内に「個人事業の廃業届出書」を提出し、青色申告の承認を受けている場合は「青色申告の取りやめ届出書」も併せて提出してください。
都道府県税事務所へは、「事業廃止等申告書」の提出が必要です。
しっかりと手順を踏んで合同会社へと法人化しよう
個人事業主から合同会社へ法人化するには、基本事項をしっかりと決めて法人登記を行い、各関係機関への届出が必要となります。正しく法人化できれば、個人事業主当時よりも信用性が高くなり、更なる事業展開も期待できることでしょう。今回の記事を参考にして、合同会社へと法人化を進めてみてください。
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